(2017年1月追記) 廃棄物と有価物の境い目の判断は難しい!
このページの記事は、『逆有償・手元マイナス』を理解するにはもってこいの事例として、2015年9月に刑事告発された「大同特殊鋼渋川工場の鉄鋼スラグ事件」を題材にしています。
あらすじは以下のとおりです。
《大同特殊鋼鉄鋼スラグ事件》
大同特殊鋼は、同社渋川工場から排出された鉄鋼スラグ(鉱さい)に、環境基準を超える有害物質「フッ素」が含まれていると知りながら路盤材として出荷し、かつ販売額以上の金額を「販売管理費」名目で支払う「逆有償取引」だったとして、群馬県は廃棄物処理法を所管する環境省と1年以上協議を重ねた上で、これらの鉄鋼スラグは「廃棄物」と認定し、2015年9月に大同特殊鋼など3社を刑事告発、翌2016年4月に書類送検しました。 |
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次章以降の記載文は2015年9月時点のものですが、2016年12月22日に群馬県前橋地検は、本件を「証拠不十分で不起訴」としました。
「廃棄物」と認定した群馬県や群馬県警に対し、大同特殊鋼は「製品としての再生資材」と主張しましたが、結果的に前橋地検は不起訴とし、その理由を「廃棄物だと立証するには証拠不十分だった」と説明する一方、「廃棄物では絶対ないという言い方はしない」とも言っています。
「あ~いろいろ表には出てこないしがらみがあるんだな。きっと。」と思わずにはいられません。
不起訴となった大同特殊鋼ですが、現在も「不良製品への対応」という名目で、環境基準を超えるフッ素や六価クロムが検出された群馬県内の130か所以上の工事現場で、土壌調査や被覆工事の費用を負担しています。
「廃棄物と有価物の境い目の判断はとてつもなく難しい」ということをあらためて認識した次第です。
大同特殊鋼の鉄鋼スラグ問題
こんな大会社でも、こんなにわかりやすいコンプライアンス違反をしてしまうのかと、考えさせられる事件です。
少し長いですが、東京新聞/TOKYO WEB 2015年9月12日 付けの記事を一部引用します。
※赤字強調は筆者
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お天道様はちゃんと見てる
廃棄物処理法に違反して廃棄物の運用をした場合、違反だと知っていた、知らなかったを問わず、内部告発でもない限り、第三者にばれなければ、それは粛々と続いて行くということでしょうか。
ことの発端は、2013年6月、大同特殊鋼渋川工場が製品化した鉄鋼スラグを路盤材として使用した渋川市施設内市道の土地形質変更時の事前調査において、基準を超えるふっ素及び六価クロムが検出されたことが群馬県・渋川市議会で報告されたことです。
そこで2014年1月には群馬県が、廃棄物処理法に基づいて立入検査を行ない調査を開始したということです。
2002年4月から2014年1月までの間に出荷された鉄鋼スラグの総量は29万4,330トン。
公共工事225カ所で使用され、このうち54カ所で土壌汚染が確認されているようです。
市道の土地形質変更時の事前調査がなければ、誰も分からなかった訳ですから、悪いことはできませんね、神様がそろそろお仕置きをしちゃおうかなと思ったに違いありません。
今回の事件で、大同特殊鋼は二つの違反を犯しました。
- 基準値以上の有害物質を含有した鉄鋼スラグをリサイクルに回した
- 逆有償取引をして産廃を有価物として扱った
鉄鋼スラグはリサイクルの優等生
そもそも「鉄鋼スラグ」とは何かを理解したほうが、事件の概要の理解するうえで助けになりそうです。
鉄鋼スラグは、製鉄業から大量に発生する副産物で、通常は産業廃棄物の「鉱さい」にあたり、年間の発生量は2,000万トン以上になりますが、そのうちの9割以上は再生利用されているリサイクルの優等生です。
主原料の鉄鉱石に、コークスや石灰石やくず鉄などの副原料を投入して溶解させ、純度の高い「鉄鋼」を作るわけですが、その工程の間に産出される「カス(スラグ)」のことです。
1トンの鉄鋼を作るのに400kg前後の鉄鋼スラグが出るので、このまま産廃として埋め立てに回すのではなく、これをリサイクルして有効活用しています。
鉄鋼スラグに有害物質が含有されていない場合、これらは路盤材(道路をアスファルト舗装する際、アスファルトの下に敷き詰める材料)、コンクリート骨材、セメント原料などに再利用されています。
鉄鋼スラグには有害物質が含有することがあるため、年に1回鉄鋼スラグの成分分析をして有害物質が基準値以下であることを確認してリサイクルに回されています。
今回の事件は、基準値以上の六価クロムやフッ素が含有した鉄鋼スラグがリサイクルに回ってしまったということです。
基準値以上の六価クロムやフッ素が含有した鉄鋼スラグがリサイクルに回ってしまったという原因を、大同特殊鋼が自らのHPのニュースリリースで、「多様な鋼種を溶解する渋川工場では、計量証明事業者による年1回の含有・溶出試験では、品質の確保ができなかった」と認めています。
有害物質が基準値以上に含有されていることを知っててリサイクルに回していたわけではないでしょうが、万が一基準値以上の六価クロムやフッ素が含有されていても、簡単に溶出して土壌や地下水を汚染することはないだろうと、認識していたのではないでしょうか。
参考《鉄鋼スラグに含まれるフッ素について》
高級鋼(特殊鋼)はP(リン)を嫌います。
精錬工程で脱リンを促進するために中国から輸入している「蛍石(CaF2:フッ化カルシウム)」を使用することがありますが、排出される鉄鋼スラグ中には有害物質であるフッ素化合物が多量に混入しているため、特殊鋼製造過程で排出されるスラグの大半は有効利用されず産業廃棄物として埋立処理されています。
逆有償取引の結末
大同特殊鋼は、1トン100円で鉄鋼スラグを販売し、裏では250円の販売管理費を支出していたということですから、絵に描いた「手元マイナス」なのですが、「スラグは廃棄物ではなく、製品だ。」と事情聴取に応じた担当者は語っています。
大同特殊鋼の廃棄物担当部署のメンバーが、もう少し廃棄物処理法を勉強していれば、「このやり方は合法とはいえない」と気づいていたでしょう。
気づいていても会社の経費削減に水を差す必要はないと思ったのかもしれません。
いずれにしても、「無許可業者に廃棄物処理を委託した」とされた場合、「リサイクル偽装」に直接関与した担当者(又は主導した役員)には、「5年以下の懲役若しくは1,000万円以下の罰金又はこれの併科」の罰則が待っていますし、同時に大同特殊鋼には、3億円以下の罰金という両罰規定も適用される可能性があります。
そして、集荷済みの鉄鋼スラグは、公共工事225カ所で使用され、このうち54カ所で土壌汚染が確認されているようですので、大同特殊鋼の負担でスラグの撤去が命じられるでしょうから、いったいどのくらいの費用がかかるのでしょうか。
その撤去費用がどのくらいかかるかわかりませんが、最終的には取締役に対して「株主代表訴訟」を株主から提訴されることがあるかも知れません。
大同特殊鋼は、私がサラリーマン時代にビジネスでたいへんお世話になった会社です。
事件が早期に収拾して、再発防止策が講じられることを祈るばかりです。
参照 ⇒ 手元マイナス(逆有償)の対応
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